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満天の星

今週のお題「星に願いを」

 

 

今でも時々、夢に見るのです。

深夜の暗い道を、何故かひとりで歩いていて、場所は見覚えのない郊外の街で、人通りはなく、車も走らず、コンビニさえも閉まっている。

車道の真ん中を歩きながら夜空を見上げれば、頭上に広がる天の川。

 

すごい。

天の川だ。私、ずっとこれが見たかったの。

 

夥しい数の星に圧倒されながらも、意識の隅っこで私には解っていた。それが本当の星ではない事を。

 

また、この夢か。

 

そう意識すると、途端に星から星へ白く細い線が伸びて、星座の形を繋いでいく。

夜空はまるで、プラネタリウムドームのようになって、たくさんの星座の模様を描くのだった。

 

ほら、やっぱり。偽物の空だ。

こんな場所で、天の川なんか見えるわけないものね。

 

私がまだ幼かった頃、住んでいた田舎は街灯も少なく、夜になればほんの少しの先も見えないほど真っ暗になった。

そんな夜道を、私は母と何度も歩いた。

夫婦喧嘩の絶えない家で、母はよく着の身着のままで父に追い出された。母が外に出ていくと父は、私達きょうだいの誰かに玄関の鍵をかけるよう命令した。

私は言いつけに背き、母の上着を掴んで外へ飛び出して母を探しに行く。

真っ暗で誰も歩いていない夜道は本当に恐ろしかったけれど、母が川や海まで行ってしまいませんようにと、泣きながら走った。

遠くに人影が見えて、それが母だと解ると大声で呼んだ。

母に上着を着せて、家に帰ろうと促すと

「風邪こ、ひぐがらおめさんだげ帰っとがん」

お母さんが死んだら嫌。だから帰らないと言うと

「大丈夫、おれは自殺しないから」

祖母の家に行って、泊めてもらおうと言うと

「年寄りは、はあ寝だあべ。おばあさんさ心配かげたぐねえがら」

何を言っても

「おめさんだげ、帰っとがん」

そう言って、聞かなかった。

私達は身体の芯まで凍えながら、街中をぐるぐると歩き回った。

漆黒の空には無数の星が瞬いていた。それは綺麗というより最早、恐怖でしかなかった。

宇宙の大きさと、地球にいる私達の塵のような小ささを思い知る、そんな夜が何度もあった。

絶望しかない私達には星の光だけでなく、時には雨が、雪が、無慈悲に降り注いでいた。

 

いつかの夜に、母が空を指差して

「ほら、天の川」

と、確かに言ったのだ。

けれど私は泣いていて、よく見えていなかった。

 

死ぬ前に、たった一度でいいから、本物の天の川を。

満天の星が、見たいのです。