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行かなかった修学旅行のこと

今週のお題「修学旅行の思い出」

 

 

小学校の修学旅行に行けなかった。正確に言うと、行かなかった。

6年の時の、季節は初夏だっただろうか。酷い風邪をひいて学校を長く休んでいた。扁桃腺が大きい私は、そのせいで熱ばかり出す虚弱児であった。

やっと熱が下がりフラフラ登校すると、教室は修学旅行を目前にして皆がそわそわと浮き立っていた。

「あ、タンポポちゃん。風邪治ったんだ、良かったね。旅行に間に合って」

仲が良かった子達がそう言ってくれた。私も間に合って良かったと思った。

でも休んでいる間に、旅行中のいろいろな事柄が決まっていた。

旅館では1枚の布団をふたりで使う事になっていて、当時一番仲が良かったA子は、他の子と組んでしまっていた。

「タンポポちゃん、いつ来れるかわからなかったから…」と、気まずそうにA子が言い訳した。それは仕方ない。私が逆の立場でも同じ事をしただろう。

「いいよいいよ」と言ったものの、それは本心ではなかった。

「タンポポちゃんは、私と一緒だよ。よろしくね」

そう言ったのは、クラスで一番大柄な体型のため「モリブー」とあだ名されていた子だった。担任が

「タンポポちゃんはモリさんとだからな。でっかいのとちっちゃいので丁度いいだろう」

クラス中が大笑いをした。私は皆にバカにされたような気がして泣きたくなった。それも今思えば、旅行前のハイテンションが起こした笑いだったのに。

余計な事を言って人を笑い者にした担任も、一緒に笑っているA子も、他のみんなも嫌になった。

泣きそうな私を見ているモリブーの、困ったような表情を今も覚えている。

 

その日、家に帰ると母が心配そうに

「学校はどうだった?みんなと旅行に行けそうかい?」

と聞いてきた。大丈夫だと答えると、母はそれがまるで特別な、良いニュースであるかのように

「もし、旅行中にタンポポの具合がうんと悪くなったら、すぐに連れて帰れるようにお父さんが車で同行するって」と言った。

私は卒倒しそうになった。

いくら何でもそんな事をする人はいないのだから、父に来なくてもいいと言ってくれと頼んだが

「だって、お父さんがそう言うんだもの。せっかくの修学旅行に周りに迷惑をかけられないんだから、そうしたらいいじゃないの」

父が言い出した事ならば、この母には止められないだろう。

それまで学校の行事に何ひとつ顔を出した事のない父が、どうして急にそんな事を言ったのか。

子ども思いなのではなく、ただ自分が行ってみたかっただけだと思った。

父は、私が物心ついた頃から、真面目に働いていなかった。

家の商売は母が切り盛りしていて、父はブラブラと遊んでばかりいた。

狭い田舎だから、それは世間の皆が知っていたのだろう。低学年の時、図工の時間に「働くお父さん」の絵を描かされて、私は非常に困ってしまった。

仕方なく、川沿いの道を走る父の車を描いたら、同級生の男子に

「お前、嘘を描くなよ。お前の親父は、働いていないじゃないか」と言われた事があった。

「嘘じゃないもん。うちのお父さんは、車で配達をしてるんだから」

日に1〜2回程度、父が車で配達をするのは本当だった。けれども、その男子に大声で「お前の親父は働いていない」と言われたのは、大変ショックだった。

もし父が本当に、修学旅行のバスに付きまとったならば、父が働かずにブラブラしている事が学年中に広まるだろう。

それは、絶対に阻止しなければならない。

この時から私は激しく嘔吐した。自家中毒症だった。

微熱が出て、学校に行くのを拒んだ。

それでも母は、新しい洋服を買ってきて「ほら、これを着て旅行に行きなさい」と気を惹こうとしたり、なだめたり怒ったりして、何とか私を修学旅行に行かせようとした。

風邪だった時は、自分も早く治して旅行に行きたいと思っていたけれど、この時はずっと具合が悪いままでいたかった。仮病だズル休みだと誰にも言われないように。

そして、修学旅行の日がやってきて、父も母もやっと諦めた。旅行の期間中の私はすっかり元気だったけれど、具合が悪いふりをしていた。とても、とても長く感じた。

旅行が終わって、やっと日常に戻るかと思ったら、同級生達は旅行の話ばかりをしていて私は疎外感でいっぱいだった。けれども仕方がない。自分で行かない事を選んだのだから仕方ないのだ。

モリブーが私の所にやってきて、小声で聞いた。

「タンポポちゃんは私と組んだのが嫌で、来なかったの?」

「そんな事ないよ。私、ずっと具合が悪かったの」

「ならいいんだけど。もしかしたら私のせいなのかと思って」

きっとモリブーは、自分だけひとりぼっちで寂しく眠ったのだろう。

ごめんね。ごめんね。でも、私はやっぱりこの旅行にはどうしても行きたくなかった。

 

 

 

 

この修学旅行はどんな日程だったのか、ほとんど知らないのだが唯ひとつ、中尊寺のミイラの話を皆がしていたのを思い出す。

行かなかった修学旅行のリベンジに、いつかきっと中尊寺に行ってみたいと思っている。

そして先日、同級生が集まった写真を偶然ネットで見つけ、その中にモリブーが写っていた。

小学校を卒業してからどうしていたのか知らなかったが、今も地元で暮らしているようだ。

モリブーは、驚く程すらっとしたスタイルになっていた。

ちびでガリガリだった私の方が今やブーになっていて、もし出会ったならばお互いに大笑いするだろう。