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あすみ

あすみが生まれたのは、母親の真奈美が43歳の時だった。

その7年前には不妊治療の体外受精で、長男の礼を授かっていた。

礼は賢く健康に育ち、子供は礼ひとりで充分幸せと、真奈美も10歳年上の夫、修も思っていた。

それなのに思いも寄らず自然妊娠をしたので、修と真奈美は困惑した。

出産前検査で問題がなさそうだったので、産むことにしたものの、真奈美はその妊娠中に何度もお腹の子を忌々しく思った。

二度目の高齢妊娠は、礼の時よりも更に身体に堪えた。礼は一年生になったばかりで、学校行事や、習い事の送迎など、まだまだ母親を必要とした。

嫁の身体を労る口実で、隣県に住む修の母親が度々やって来るのも嫌だった。

どうして今更、妊娠なんてと真奈美は何度も口にして、修はそれを咎めた。

お腹の子が女だと判ると修も礼も大変な喜びようで、出産の日を待ち望んでいたのだった。

その出産は大変な難産で、母子共に危険と判断され、途中から帝王切開に切り替わった。

真奈美は傷の痛みと産褥症状が続き、赤ん坊どころではなかったが、礼の事が気がかりで1日も早く退院しなければと思った。

修の母親が礼の世話をしていたが、いつまでも義母まかせには出来なかった。必要以上に礼を甘やかし、ゲームばかりさせたり駄菓子を与えたりしかねない。

修と礼は毎日のように見舞いに訪れた。礼は、母親がまだ暫く入院しなければならないと聞かされても

「ママはまだ入院しててもいいけど、早く赤ちゃんを家に連れて帰ろうよ」

と言うほど、新しい妹の虜になっていた。

「まあ、礼ったら。ママがいなくても大丈夫なの?宿題はちゃんとやってる?忘れものなんかしていないでしょうね?」

「ママなんかいなくたって、全然平気だよ。早くお家で赤ちゃんと遊びたいなあ」

「赤ちゃんと遊べるようになるのは、まだまだ先よ。赤ちゃんはおもちゃじゃないのよ」

真奈美はズキズキと酷く痛む下腹を擦りながら、礼を見つめて微笑んだ。

(少しの間、離れていただけなのに、急に生意気になって…)

こんなに喜ぶならば、妹を産んであげて良かったのだ、と思った。

「なあ、親バカだと笑うだろうけど、うちの娘が一番可愛いなんてもんじゃないな」

「あら、あなたもそう思う?実は私も、この子は特別だと思うのよ。

今までに見たどの赤ちゃんよりも綺麗だもの。まるで、ルノワールの描く天使みたい」

「僕よりも親バカだな。うん、でも確かに神がかっているよ」

「礼の時は、まるでおサルさんだったもの。でも、この子は全然違うわ」

「僕、サルじゃないよ!」

「アハハ、ごめんね。でも礼が生まれたばかりの時、本当におサルさんみたいに赤くてシワシワだったのよ。後で写真を見せてあげる」

「嘘だ!嘘だ!ママなんか嫌い」

礼に初めて「嫌い」と言われ、真奈美の心は針が刺さったようにチクリと痛んだ。

これからだんだんと礼も反抗期になるのだろう。他所の子に比べたら大人しくて優しい子だけれど、下の子が生まれたからといって目を離さないようにしなければ…

 

「名前は『あすみ』にしようと思うんだが、どうだろう?」

「僕とパパで考えたんだよ。明日を夢見る『あすみ』だよ」

「まあ、そうなの。あすみ、可愛い名前ね」

「明日を夢見ても、この子が成人するまで僕は生きているのかな?」

「嫌だパパ。変な事言わないで。この子達のために、まだまだ頑張ってもらいますよ」

「そうだな。あすみの花嫁姿を見るまでは、頑張るさ」

「ダメだよ。ずっと僕の赤ちゃんだからね」

そんな他愛ない会話をしながら、この幸せがいつか壊れてしまうなどと夢にも思わない真奈美だった。

 

 

 

と、このような物語をエブリスタで書き始めました。

不定期更新で、ラストもまだ決まっていませんが宜しくお願い致します。