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犬とドラマと、花のこと③

深大寺に行ったのは、録画していたドラマ「運命に、似た恋」の、1話と2話を見た翌日だった。

その日はLが眠る動物霊園で、秋の大祭があった。

秋の大祭といっても、いったい何をするのか解らない。事前に郵送されてきた振込み用紙で供養料千円を振り込んだので、どんな供養をするのか見てみようと思った。

でも、午前11時から始まるのというのに、その時間にまだ電車に乗っていた。三鷹駅に着いても深大寺まではバスで15分ほどかかるので、完全に遅刻だった。

ちゃんと早起きをして、間に合うはずだったのに。

心のどこかで、本当はあの場所に行きたくなくて、グズグズしていたのだろう。

でも、お彼岸にも行かなかったので、お墓参りが出来ればそれで良かった。

早々にお参りを切り上げて、神代植物公園に向かった。

最近まるで歌が詠めないので、秋草を眺めながら公園を散策したら、きっと何か浮かぶかもしれない。

そう思いついたものの、草の茂みが風でガサガサしただけでLが隠れているような気がした。

この場所にいるのは、辛い。

深大寺には、数えきれないほどLを連れてきた。

テンションの上がったLは、制止もきかなくなって走りころげた。

落ちてくるドングリや松ぼっくりを齧り、取り上げるのが大変だった。

栗やら杉の枯れ葉がLの身体中に絡まり、まるでミノムシのようになった。

「だから秋に来るのは嫌なんだ」と、よく愚痴を言った。

けれど、今年の秋も来年の秋も、ここにLを連れてきたかった。

 

参道にある坂の途中の階段を上れば、そこに動物霊園があるのを知っていた。うつむいて涙を拭う人が階段を下りて来ると、目をそらした。

うちの犬も、死んだらこの霊園にしようか?」

と、いつか夫が言った事がある。

私は縁起でもないと一蹴して坂を下り、お団子やさんに向かった。

うちの犬が死ぬなんて、まだまだ先の事だと思っていた。

私はいつでも悲しみに明け暮れているわけではない。

Lと来た場所にいて、そこにLがいないのが苦しいのだった。

始めての場所ならば気が紛れた。

けれども私達は10年間、ずっと一緒にいて、様々な場所に出かけたのだ。

青梅の梅、越生の梅

目黒川の桜、千鳥ヶ淵の桜

羊山公園の芝桜、ひたち海浜公園のネモフィラ

玉原高原のラベンダー、那珂の向日葵

レイクウッズガーデンのバラ

日光、長瀞、那須、奥久慈、奥多摩の紅葉

 

犬が死んだ後に、これほど苦しくなるのだったら

もう、花など見に行きたくない。

 

神代植物公園のバラ園では、ちょうど秋のバラフェスタが始まったばかりだった。

短歌もまるで浮かばないし、私はバラ園に入ってみる事にした。

あとで気が変わり、秋バラを見に行こうと思っても、家から調布はかなり遠いのだから。

バラは開花したばかりで、どの花も冴え冴えとした色に咲いていて美しかった。

ここはペットが入れないので、不意に目の前に現れるよその犬を見て悲しくなる事もない。

バラの香りに包まれて、少しだけ穏やかな心になれたが、どんよりとしたグレーの空と同じで気分は晴れてくれなかった。

一通りバラを見て回ったら疲れてしまい、私は早々に帰りたくなった。

家には誰もいないけれど、吉祥寺でランチをして、ケーキを食べてもう帰ろう…

そう思った時、目の前に大温室があった。

私は、熱帯の植物が展示された温室があまり好きではない。

入ってもどうせ蒸し暑くて、ヤシの木とか、バナナの木とか、大きなサボテンがあるのだろうと想像がついた。

でもこの大温室は、春のバラフェスタの時には工事中で、入る事が出来なかった。

あの時も今回も入らなかったら、何だか入園料が勿体ないよね…

さっと一巡りしたら帰ろう。そう思って入る事にした。

大温室はリニューアル工事を終えて、素晴らしい出来栄えだった。

工事する前の姿を知らないので比較出来ないが、たくさんお金をかけた豪華な温室という印象だった。

そして、入ってすぐの場所にある熱帯花木室には、いかにも熱帯雨林に生えていそうな草を茂らせた池があり、大きな木がそびえ立っていた。

さっと一巡りするはずが、何故か私はその木に惹き込まれた。

順路の反対側にまわり、その木の枝にあるものを凝視した。

枝からは緑色の房が、葡萄のように長く垂れ下がっている。

初めて見る、奇妙な植物であった。

あれは何?実が生っているのかな?

よく見ると、緑色の房の中のいくつかが、白い糸のようなものを放射状に伸ばしていた。

まるで綿毛のような、ふわふわな丸いものも付いている。


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あれは、花?

そしてあの緑の丸いのが、蕾?

不思議な木だこと。でもこの花、何だか見た事があるような…

もしかしたらこれが、あの…

すぐ側にある名札が目に留まり、私は「あっ」と小さく声をあげた。

これは、サガリバナ。

池を模した水面にも、通路にも、白い花が散っていた。

私はドラマ「運命に、似た恋」の序章に出てきたサガリバナは、きっと伝説か何かの花だと思った。

本当にあるのだとしても、そこは私などが行けないような場所で、この目で見る事は到底出来ないと思っていた。

一夜だけ咲いて夜明けと共に散ってしまう、儚い花、サガリバナ。

朝が来てこの花が次々と落ちる様や、水面にたくさん浮かぶ幻想的な眺めを見てみたいけれど、それは、叶わぬ夢…

なのに、ドラマを見た翌日にこの花を見るなんて。

 

母ちゃん。いい加減もう泣くなよ。

花なんか、見たくないなんて言うなよ。

 

ありがとう。Lが、ここに連れて来てくれたんだね…

 

 

 

人生は、必然と不思議な偶然の連続で、まだまだ面白い。

私はもう少し生きて、まだ見た事がない何かを、もっと見てみたいと思った。

 

 

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