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文芸メイン、その他もろもろ

形見の指輪

東日本大震災の後、年に一度の帰省を自分に課している。

6年目の今回は諸事情あって、いつもより少し早めの帰省となった。
 
その事情のひとつが、入院中の伯母の見舞いで
「もう長くないから会ってやってくれ」と、母に懇願されたからだった。
 
デパートをぐるぐる回り、和菓子店で白桃と葡萄の飲むゼリーを見つけたので、それを持っていく事にした。
 
帰省の前夜、私は生まれて初めて胃痙攣の痛みに襲われた。
 
痛みのせいであまり眠れなかった。翌朝も思うように動けず、買ってあった切符の新幹線に乗り遅れた。
それでも切符をとり直し、別の新幹線に乗った。
 
帰省は楽しみではなく苦しみにも似た、やはり人とは違う感覚が私にはあるのだと思う。
 
この帰省の間、あまり食べられなかったし睡眠もとれなかった。
 
最悪の体調で、(私はここで倒れてしまうのではないか?)と思うほどだった。
 
でも、それならそれでも良かった。
 
故郷の空は青く澄み、海風も山から吹くみどりの風も心地よく、ここで死ぬのならばいいやと思った。
 
あれほど、あれほど嫌っていた故郷だったのに。
 
 
病室の伯母は、母から聞いていたよりもっと衰弱していて、最早私の知っている伯母ではなかった。
 
2回病室に行ってみたが、2回とも昏々と眠っていて話す事も叶わなかった。
 
伯母は母の姉で、伯母が亡くなれば母の親兄弟は誰もいなくなってしまう。
 
そうなったら母も落胆して、弱ってしまうのだろう。
 
でも伯母はもう90代で、いつ何があっても仕方がない。
 
実家に帰ると母は、伯母から託されていたバッグや指輪やブローチを私に見せて
「姉さんは良いものばかりたくさん持っていたから、形見に何か貰いなさい」と言った。
 
伯母は伯父の商売が上手くいき、とても裕福な暮らしをしていた。
 
けれどもそれらの品々は、どれもこれも古臭くて地味であった。
 
私は、何の石か解らないけれど、白い石の付いた18金の指輪を貰った。

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とても小さな指輪で、私の小指にしか嵌められない。
 
「生活に困ったら、売っちゃうからね」と言うと
「それでもいい」と母が言った。
 
 
 
 
同じく18金の真珠の指輪は、義母の形見である。
 
義母は質素で、外見を飾り立てる人ではなかった。この指輪は義母がよそゆき用にしていた唯一の指輪だった。
 
結納の時も、結婚式にも、いつでもこれを嵌めていたのを思い出す。
 

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一文字のダイヤモンドは、祖母の形見。
 
身内の誰かが30万のお金を祖母に借りたのに返せず、お金の代わりにこの指輪を置いていったと聞いた。
 

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どれも地味なので殆ど使っていない。生活に困ったら売ろうと思いながら、長い長い時が流れた。
 
その間、生活に困らなかった訳ではない。
 
 
紬の着物やオメガの腕時計、様々な物を売ってしのいできた。
形見の指輪は、売ることが出来なかっただけだ。
 
そしてこれらの指輪には何か、目には見えない念のようなものが宿っているのを感じている。
 
 
だから、きっとこれからも、ただこうして時々眺めるだけなのだろうと思う。
 
縁のある誰かに、これらを託すまで。