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文芸メイン、その他もろもろ

ちびいぬのこと

一昨日の土曜日の夜、私と娘はフレンチを食べに出かけていた。

夫は飲み会のはずだった。

楽しい気分で帰宅したら、このちびいぬがいた。


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私は泣きたいような、怒りたいような、叫びたいようないろんな感情をおし殺した。
 
「どうしたのこの犬。」
 
「知り合いに借りてきた。」
 
夫はノンキに笑っている。
 
うちの2匹の犬達は側で丸まっていたが、これまで夫の寵愛を受けていた捨て犬は、非常に不服そうであった。
 
私は、自分の部屋にこもった娘を呼んだ。
 
「うわ、何これどうしたの可愛い!」
 
「可愛いだろう。」
 
そりゃ可愛いよ。
 
ちいさきものはみなうつくし。
 
これまで成犬ばかりを飼ってきたから、この小ささは驚異的だった。
 
ペット屋の売れ残りだった7か月のLでさえ、体は成犬並みでパピーとしてはとうが立っていた。
 
チワワのような捨て犬も、ちびいぬと並べば巨大に見えた。
 
ちびいぬはよちよちと歩き、コロリとずっこけて一時も目が離せない。
 
うっかりしたら踏んづけてしまいそうだった。
 
娘はちびいぬを手のひらに乗せて写真を撮ったり、玩具で気をひいたりして遊んだ。
 
私は「あまりもてあそぶと死んじゃうから、やめなさい。」と言った。
 
すると犬は、私にまとわりついて甘える素振りをした。
 
まるで、誰に媚びればずっとここに居られるのか解っているかのように。
 
 
 
私がいけなかったのだ…とも思う。
 
いつまでもLの話ばかりして、いつまでもため息ばかりついていて。
 
夫は、考えてもどうしようもない事を考えるのが嫌いで、辛気くさいのが何よりも嫌いな人だから。
これを書いた後にもまた同じように、猫を飼う飼わないで喧嘩をした。
 
夫は別に、猫など飼いたくないのだ。
 
けれど猫がいれば、私はLを忘れるだろうし、自分も猫ボランティアの人にいい顔が出来る。
 
この犬も本当に借りものなのか、もう買ってきてしまったのか解らないし知りたくもなかった。
 
どうして、大切な事を何の相談もなしに勝手に決めてしまうのだろう?
 
いつも、いつも。
 
ふわふわの、羽の軽さの犬を抱いて、私の気分はどん底まで落ちた。
 
ちびいぬは、おめかししていた私の新しいニットに爪を立てた。
 
大して腹も立たないのに、私は殊更に不機嫌になってみせた。
 
娘はいつの間にか、汚されてもいいような格好に着替えている。
 
何しろほんの赤ん坊なのだから、そのうち糞尿の被害にあうだろうという周到さであった。
 
まだ餌をあげていないというので、フードをふやかしてあげてみたが食べなかった。
 
残った餌をうちの犬達が狙っている。
 
犬達はもはや、ちびいぬには何の関心もないようだった。
 
2匹はちびいぬ用のふやけたフードをきれいに食べた。
 
がっつく犬しか飼った事がないので、餌を食べなかったら死んでしまうんじゃないかと思った。
 
「ちょっとずつ、1日に数回分けてあげるしかないんじゃないかな」
と、夫と娘が言う。
 
 
誰がやるのそれ?
 
 
ちびいぬは娘と私にさんざん甘えて遊んだかと思うと、突然パタンと倒れてぐっすり眠った。
 
まるで人間の赤ん坊のようだ。
 
Lが家に来た時は、遊び盛りの疲れ知らずだったから、相手をする先住犬が大変そうだった。
 
ちびいぬも少し成長したら、きっとそうなるのだろう。
 
 
ちびいぬは夫がいびきをかいて寝ている間に、借りたクレートの中でうんちまみれになり、夜中お風呂場で私に洗われた。
 
シャワーの音に怯え、隅っこで震える濡れネズミのようなちびいぬに、私も娘も
 
「これ、朝まで生きているかしらね?」
 
と、不安になった。
 
借りたクレートも洗い、犬を乾かしている間、娘に言った。
 
「この犬は、飼わないからね。
 
そりゃ、ちっちゃくて可愛いよ。
 
可愛いんだけど、この犬を最後まで飼うよりも、私が死ぬ方が先かも知れないもの。
 
その後もあなたがずっと飼ってくれるなら、いいけどね。」
 
娘は、ちびいぬを返してもいいと言った。
 
先住犬の後、Lも捨て犬も、ある日突然この家にやって来た。
 
これまでは仕方ないなでどうにかなったけれど、これからはそうもいかない。
 
 
ちびいぬはうちにあるクレートに閉じ込められて、一晩中鳴いた。
 
それはワンワンではなく、キューンキューンという赤ん坊の声だったから、我慢すれば私達も眠れた。
 
鳴き声は30分続き、2時間静かになった。
 
死んでいないか心配になって見に行くと、ちびいぬは爆睡していた。
 
臭いと思ったら、シートにうんちがあった。
 
食べていないのに、どうしてこんなに出るんだろう?
 
寝返りを打つとまたうんちまみれになってしまうので、シートを取り換えた。
 
目覚めたちびいぬは私に遊んでもらおうとしたが、クレートに閉じ込められるとまた鳴き出した。
 
30分鳴いて、2時間寝た。
 
まるで、新生児の授乳の時と同じだ。
 
次に鳴いた時には明け方で、キューンというか細い声ではなくウギャーピギャーという絶叫だった。
 
これには夫も娘も起き出して、ほとほと困り果てた。
 
私は疲れて布団に潜った。
 
娘がちびいぬをクレートから出して遊んでやり、やがて力尽きてちびいぬと共にリビングで眠りこけていた。

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結局ちびいぬは、18時間だけ我が家にいた。
 
夫と娘と3人で、レンタルペット屋に犬を返しに行った。
 
犬は一週間借りることが出来て、気に入ったら買い取りも出来るという仕組みらしい。
 
 
再び檻に入れられたちびいぬは、お座りをして真っ直ぐにこちらを見ていた。
 
可愛かった。
 
可哀想だった。
 
ごめんねちびいぬ。
 
ごめんねちびいぬ。
 
どうかもっと、うちよりもいい家に飼われますように。
 
どうか神様、ちびいぬに奇跡と幸運を。