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犬なんか飼わないほうがいい話⑦

 

高3の冬、あと少しで上京するという頃だった。

私は、ただ可愛いという理由だけで通学路の途中に犬を貰ってしまった。

生まれたばかりの、白い雑種の仔犬だった。

結婚後にも、ペット禁止のアパートで内緒で猫を飼っていた。

犬も猫も双方の実家に押し付けて、結局は可哀そうな死に方をさせてしまった。

あの犬と猫への後悔から、今いる3匹の犬は最後まで飼いたいと思う。

でも、その自信がない。

 

犬を飼いたいと、強く願った10年前。

あの頃はまだ若く健康で、自分達が病気になるなんて思いもしなかった。

年に一度、狂犬病と犬6種混合ワクチン、フィラリア予防の薬で動物病院に支払う額は、3匹分で37,000円。

犬が若かった時にはそれだけで済んでいた。

犬も年をとれば病気をするようになる。恐ろしいほどの病院代がかかってくると高齢犬を飼っている人に常々そう聞かされていた。

それなのに、うちの犬はずっと元気だろうと勝手に思い込んでいた。

 

里子犬は6歳の時、乳腺に腫瘍が出来た。日帰りの摘出手術に60,000円支払った。

病理検査の結果、悪性ではなかったが、腫瘍は乳腺がある限り再発、ガン化する可能性もあるという。

全ての乳腺を取ってしまえば、再発しないと言われた。

悪くもないところにメスを入れるのは可哀そうと思い、それをしなかった。

しかし結局再発して、2度目の摘出手術をする事になった。

犬は、どうして欲しいのか話す事が出来ない。全てを飼い主が決めるしかない。

里子犬はこの夏にも突然半身がマヒして歩けなくなり、入院となった。一泊入院で約30,000円だった。

マヒが全身に及んで急死するケースがあると言われ、覚悟していた。

幸い翌日には元気になったが、痛み止めを飲ませたりレーザーを当てたりの治療で1ヶ月通院した。

急にガタガタと震えだして一歩も歩けなくなるというのは、雄犬もなった事がある。腰が痛いらしい。

驚いて病院に連れて行ったら、雄犬は看護士を見た途端にダッシュで逃げようとした。

「走るんだから、大丈夫。」

と笑われ、それでも気休めに痛み止めの注射をされて、何千円かを払うのである。

年が明けたら3匹全員が10歳を超える。

室内犬だから、後5年は生きられる。

病気や痴呆と向き合いながら、もっと生きるのかも知れない。

これからどんどん医療費が嵩むのだろう。犬も人間も。

お金の事ばかり書いて、いやらしいと思う。

貧乏人が犬を飼うとこういう事になる。

犬は、お金持ちしか飼ってはいけないのだ。

 

私は時々、なんで家には犬が3匹もいるんだろう?と口に出してしまう。

そして、早く死んでしまえばいいのに…と、心の中で思う。

犬がいなくなったら、フローリングを全部張り替えよう。

脚におしっこが染み込んだ、テーブルセットも捨てる。

リビングにふかふかのラグを敷いて、ソファも買いたいな。

一人で長い旅にも出よう。

旅先で犬を見るたびに、心配したりソワソワしなくて済むようになる。

月末のお財布の中身とドッグフードの残量を気にしなくてもよくなる。

具合の悪い犬を、病院に連れて行こうか?いや、明日は元気になるかも知れないと見極めに悩まなくて済む。

早く死んでしまえばいい。動物愛護センターに持ち込むなんて事は、絶対にしたくないから。

飼いきれなくなった犬を引き取って看取る、義父母のような奇特な人などいないのだから。

最期まで、飼いたい。

でも、犬を残して私達が先に死んでしまったらどうなるの?

そんな事、犬を飼う前には考えてもみなかった。

絶対に犬より長く生きなければならない。犬の最期を看取るために。

 

 

本当に犬が死んでしまったら、私は一体どうなってしまうのだろう。

老いてきたうちの犬は寝てばかりいて、息をしているのか心配になるほどだ。

真夜中、横で寝ていた犬の体が冷えている。寝息が聞こえない。触っても動かない。

私は驚いて飛び起き、名前を叫ぶ。

犬は面倒くさそうにウーと唸り、ああ生きていたと安堵するが、心臓のドキドキが暫く収まらない。

犬が死ぬのは、とても怖い。

愛犬を亡くした知人が、何か月たってもまだ悲しみのどん底にいるのを見るにつけ、私もそうなってしまうのかと思うと怖い。

別の知人は、愛犬を亡くして少しも悲しそうではなかった。

何故と聞くと

「自分は犬に十分過ぎる程の愛情を持って飼ってきたから、1ミリの後悔もないの。

犬も幸せな一生だったと思う。だからちっとも悲しくなんかないよ。」

と言った。

そう聞けば、私はますます不安になる。

うちの犬は、うちに来て幸せだとはとても思えないから。

 

 

2頭の愛犬を相次いで亡くし、後を追いそうな程悲しみに暮れていた知人がいる。

彼女が新しい仔犬を迎え、やっと笑顔になっていた。

ガンで壮絶死した飼い犬と同じ犬種だった。

犬がいない寂しさは、犬でしか埋められないのだろうか?

どうしてまた飼うのだろうと、私は不思議でたまらない。

その先にはまた、あの悲しみが必ず待っているというのに…

 

 

-END-