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文芸メイン、その他もろもろ

犬なんか飼わないほうがいい話④

我が家には今3匹の犬がいて、それぞれ別々の所から引き取った犬だ。

3匹の事を書けば、文章は書かないはずのこのブログを延々と犬シリーズで引っぱった挙句、いつもの如くグダグダになって不時着だろう。

なので2匹目以降は割愛して、最初の犬の事を書こうと思う。

 

ちょうど10年前、その犬は我が家の家族になった。

某施設が閉じる事になり、飼われていた犬達の里親を募集しているのをネットで知った。

その施設には、娘が小さい時に2度連れて行った。

入園料を払い、好きな犬を選び30分間園内を散歩させるのにも更に幾らか支払った記憶がある。選んだコーギーはもう散歩などしたくなかったらしく、全く歩かなかった。抱っこをしたり降ろしたりして30分過ごしたが、コーギーはとても重たかった。

そして、楽しく遊んだ後に必ず不機嫌になる娘を引き摺って帰った、苦い思い出の場所でもある。

久し振りに訪れたその施設は、当時と変わらず親子連れの笑顔に溢れていて、とても賑やかだった。

里親になるには、書類選考と面接があった。

面接は、繁殖目的の人をはじくのが目的だと思う。また、飼育環境についても詳しく問われた。

面接には、私と娘で臨んだ。

里親募集の犬達はどれも成犬で、犬種や年齢、性別も様々であった。私達はなるべく若い犬を希望した。

念願叶ってやっと飼う事になった犬が、早く寿命がきてしまうのは悲しいと思ったからだ。

 

数日後、面接に合格したと連絡があり、夫と一緒に犬を迎えに行った。

犬を引き取る際、事務手数料として1万円を支払った。これは血統書関係か?

生涯、責任を持って飼育する旨の誓約書も書かされた。

(今は理不尽な話と思う。100匹以上もいた犬達の生涯の責任を持たなかったのは、施設側である)

それから、犬が亡くなった時の埋葬について書かれた紙を貰った。

(私はそれをどこかにやってしまった。犬が亡くなるなんてずっとずっと先の事だと思っていたから)

里子となる犬は透明なケージの中にいて、冬の日差しを浴びてうつらうつらしていた。

それを見た夫は「あの犬なの?何だか婆さんみたいだな」と笑い

「失礼な。まだ1歳なのに」と、私は怒った。

里子となった犬達と里親は、大勢の従業員に見送られた。中には泣いている男の人もいた。

犬との別れが悲しいのか、それとも閉園後の我が身を案じているのか解らないけれども…

犬は、とても緊張していた。

車に乗っている間、私の膝の上でまるでビクターの犬のようにかちんかちんに固まっていた。

後に聞いたのだが、犬は仔犬の頃、施設内に併設されているペットショップで販売されていたがとうとう売れ残り、施設のふれあい犬となったらしい。

だから産まれて親犬から離された後は、ずっとあの施設の中にいたのだ。

突然知らない人が現れ、初めて車に乗せられ、どこか遠い所に行こうとするのだから、暴れたり騒いだりしても仕方ないと思うのに、犬は無表情で窓の外を眺めていた。

 

家に着くと、早速娘が犬と遊びたがったが、私はそれを制した。

「犬が慣れるまでは、あまり構ってはいけないんだって。疲れちゃうからね」

犬は、家の中を恐る恐る歩いていた。私達は、TVも付けず話し声も潜めて静かに犬を見守った。

すると、犬は暫くウロウロした後カーペットのど真ん中に大量のおしっこをした。

犬のトイレは準備してあったが、私達は犬の排泄について全くの無知であった。

犬の施設では、犬用のトイレがあったのかどうか解らないが、放されている犬達はその辺で好き勝手にたれ流していて、従業員がたえず掃除をしていた。

成犬に排泄の躾をする事がどれほど大変か、私達はまだ知らなかった。最初は失敗しても仕方がない。そのうち覚えるのだろうと思った。

犬を迎えに行った日の夜、ケージで寝かせるまで犬はひと声も鳴かなかった。

「全然鳴かない犬だね」

夫は訝しがったが、私は犬が施設でワンワンいうのを聞いていたので、鳴けない訳ではないだろうと気にしなかった。

そして、翌朝7時になるとケージの中から「ワンッ!ワンッ!」と大きな声で吠えた。

「うわっ、鳴いた。ビックリした〜」

私達は、飛び起きた。

そう言えば、「施設では毎朝7時からお散歩タイムなので、散歩を催促されるかも知れない」と聞いていたのだった。

 

犬は、家の中にある物全てが未知の物であるから、常に緊張していた。

玄関チャイム、電話の着信、掃除機、プリンター等、機械の動く音の全てに過剰反応した。

そして、1ヶ月経っても2ヶ月経っても他人行儀な犬であった。

トイレは上手く出来たり失敗したりの繰り返しで、2枚目のカーペットを捨てた後、私はリビングにカーペットを敷くのをやめた。

相変わらずの無表情で、甘えるでもなく何を考えているのか全く解らなかった。

(お前はうちに来てもあまり幸せじゃないのかな?でも、もう戻る場所はないんだからね。仲良くやっていこうね…)

私はこの犬をきっと幸せに出来るだろうと、この頃にはまだ信じていた。